それでいいっしょ

ゲイHIPHOPライター鼎のブログ

結婚式場で洗い物のバイトをしたら式よりも厨房の方がドラマティックだった

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wedding

中年派遣戦士牧迫、お次の現場はどこかなって思ったらなんと結婚式でした。結婚とは無縁のオカマが!結婚式でバイト!

いいじゃん。一人の女と一人の男が、法的に、そして精神的に結ばれる祝福の日。そのお手伝いができるのであれば、あたしはがんばるよ。そう思いながらチャレンジしてきた。とはいっても厨房で洗い物をするだけなんだけど。

いやぁ、埼玉の僻地は遠かったっス。でも結婚式場ってやっぱり土地が必要だから地価が安い地方都市に増えるのはしょうがない。でも建物も素敵でした。結婚式あげるならこういうところがいいなってうっかり思ってしまった。オカマだから結婚しないけど。

 

案内のお兄さんを捕まえて裏口を聞いて入館。服は親切にも貸してもらえるのだが、将太の寿司みたいな帽子をかぶらされた。

広い洗い場にどどんと置かれたスポンジ、たわし、そして洗剤。そしてのっけから始める洗い物の嵐。「結婚式とかって200人くらいお客いるからお皿洗いだったらやだな」って思ったら皿洗いの係りは別にいて、あたしは調理器具を洗う係りだった。
でも厨房で数百人分の料理を作るわけだから、使う調理器具の量も凄い。フライパンは一度に何個も使うし、オーブン皿だって半畳ほどの大きさもある。中には見たことも触ったこともない調理器具も存在したりする。それらが次々とシェフたちから流れてくる。脂でギトギトになったそれらをリズムよく、無言で洗い続ける。
もちろん洗うだけではない。洗い終わった調理器具を水切りかごに一旦置き、タイミングを見てタオルで水気を拭いてキッチンの棚などに戻す。どこになにがあるかも一目見て把握しなければならない。どうしてもしまう場所がわからないものは聞けば教えてくれるが、コックさんたちも忙しいのでタイミングを計らなければならない。
それでも工場勤務で単純作業は慣れているので黙々とこなした。洗い物の量は多いが下手な慣れあいもなくて精神的には全然楽だった。

 

壁一枚を隔てればそこは結婚式。人生最大の祝福の場だ。結婚式特有の緊張感が伝わってくる。新郎新婦を祝う拍手と談笑。なんて素敵な環境なのだろう。皆、余興で「海の声」を歌うのには辟易したけれど(本当に2組続けて歌っていた)、不意の平原綾香にはウルっときた。間接的にではあるけれど、そんな結婚式のサポートに少しでも携われてとっても良い仕事に当たったなと思った。

お昼はキッチンのスタッフ皆でまかないを食べた。シェフじゃなくて、スタッフの作った牛筋の沢山はいったトマトソースのパスタ。とっても美味しかった。プロの味だ。

それにしてもフランス料理はアートだと思う。無数に並べられる皿と言うキャンパスに次々と食材が乗せられてそのオブジェは完成する。原材料はわからないが、オレンジと緑のソースで線が引かれる。ムースにエビが突き立てられる。添えられたクリームをバーナーであぶって焦げ目をつける。なんとも美しい。食べるのももったいないほどだ。こんなに美しい料理が出されるなんて招待客はなんて幸せ者なんだろう。

こんな料理を作れるシェフはやはり職人気質だ。人柄は良いが少し気難しい。でもあたしには親切だったからと気にしてはいなかったが、なぜかあたしが来た日に限って事件が起きる。

 

子供に多いアレルギー除去食問題。でもこれはウェディングプランナーが事前に調査してある程度シェフも対応している。しかしこの日は急にプランナーがシェフに「もう一食、除去食お願いします!」と言ったことでシェフが怒り始めた。「言われた分は作ったろ?どういうことだ!」怒鳴り声がキッチンに響き渡り、空気が張り詰める。そしてその理由が酷かった。「お子さんのお隣のおじさんがお子さんの除去食を次々とつまんでしまったようでして。」
「なんだよそれ!除去食はコストもかかるのは知ってるだろ?うちは慈善事業じゃねえんだ!」シェフの怒りはもっともだ。でもプランナーのせいでもないので、すぐに作り直す。

 

更にトラブルは続く。午後の式に合わせて洋菓子屋からウェディングケーキが届いたのだが、ものの見事に傾いていた。3段重ねられたケーキの1段目のスポンジが沈んでいた。そこでやはりシェフがお怒りの電話をかけた。
「あのよー、ウェディングケーキが傾いてるんだけど、これ縁起物なんだわ。作り直してくれる?」「んで、いつ持ってきてくれんの?おたくこれが初めてじゃないよね?前もこういうことあったよね?」「いや、おたくのチーフさんが謝りに来ても仕方ないんだわ。もう式の準備始まってんだわ。とりあえず早く持って来いっつってんだろ!!」

何とも言えない空気の中で、あたしはひたすら存在感を消して洗い物に徹する。ポタージュのために裏ごしに使った調理器具が中々綺麗にならなくてやっかいだわーなんて考えながら。決して楽な作業ではない。プロが使う調理器具だ。鍋の底はとても深く、トレイ類の面積も広い。力を入れて洗わなければならない。
ピリピリした空気の中、しばらく待っていたらなんとかウェディングケーキが届いて、式には間に合った。冷や汗かいた。

 

そしてまたもやトラブル。プランナーがキッチンに来て「乾杯終わりました。10分押しです。」と言った瞬間にシェフが「は?それちゃんとうちらに言ってくれた?もう料理できてるんだけど。今から10分待って出したら冷めちゃうだろ」「なんでそっちで話を勝手に進めてんだよ、入場は時間通りだっつってたろ。もし時間が押すんだったら早くこっちにも言えっていっつも言ってんだろ。なんでそれができねえんだよ」
度重なるトラブルでシェフの怒りは絶頂に達し、フライパンを床に叩きつけたので大きな音が響いた。素知らぬ顔で洗い物をしていたあたしもさすがにビクっとなった。
「申し訳ございません!」「申し訳じゃないっつうの」「お願いします!」押し問答の上、不服そうながらもシェフが折れる形になった。しかも変形したフライパンが洗い物に回ってきて「ひぇ~」っと思いながら歪みを直していたらシェフは「ごめんな~びっくりしたろ」っとあたしに謝ってきた。

でも職人なんてこんなもんだ。筋が通ってないことにだけ怒る。自分の仕事に誇りをもっている証拠だ。幸せな結婚式になるようにプランナーもシェフも必死なのだ。だから全然居心地は悪くなかった。


それにしても凄いものを見た気がする。シナリオ通りに進む結婚式よりも裏方が本気でぶつかり合っているキッチンの方がドラマが沢山だった。
機会があればまたやりたい。

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