前の職場のパートさんからラインが来た。たまに連絡を取り合ってはいるので何気なく見たらむかし通っていた中華料理屋のスタッフさんが亡くなったと書いてあった。
びっくりして電話をしてみたらパートさんは泣きながら話してくれた。出勤してこないので他のスタッフが見に行ったら既に亡くなってたらしい。大方、心筋梗塞だろうとのことだった。
だってまだ36だよ。早すぎんだろうがよ。
その中華料理屋は前の職場のすぐ近くにあった。下町の中でもマイナーなそのエリアでお昼御飯が食べられるところができたのは非常にありがたかったから、毎週のように通った。
銀座の中華料理屋で下積みをしたというスタッフが作る料理は本当に美味しかった。しかもランチは500円だったし、夜は夜でたまに飲みに行ったりもした。なによりもそのスタッフとおしゃべりをするのが楽しかった。パートさんと一緒に飲み行くこともあった。
ちょっと体がふとっちょで、髪は長いからいつもひっつめにしてて、目が濃くて髭もあってコワモテで、黒縁メガネをかけていて、お世辞にもイケメンとは言えないけれど愛嬌があって、いつもお客さんとおしゃべりをしている人だった。
その中華は本当に本当に美味しかったから食べログとエキテンにお店も登録もさせたんだけど、口コミ第一号を書き込んであげたら大喜びされた。途中で職場が引越して若干遠くなってもたまに飲みに行っていたし、仕事を辞める時に開いてもらった送別会はそのお店をリクエストした。くだらない話とか仕事の愚痴しか話してないけど、それでもよく話していた。食べ物の話だとか、音楽の話だとか。錦糸町のオッパブの話になったこともあってゲラゲラ笑いながら聞いた。友達みたいな感覚だった。
確かに体の不調を訴えることもあった。というより2人で店を回していてたんだけれど、仕入れから調理まではそのスタッフさんが全部やっていたので負担がすごかったみたい。接客や配膳はもう一人に任せてたけど役割ってやっぱりそれぞれあるからね。
店を終えて深夜に帰って、朝起きて仕入れ、そしたら仕込みをしてランチ営業。万年寝不足だと言っていた。キッチンに立ちっぱなしだったので全身がカチカチに凝っているとも言っていた。そしてやはりジャンクなものばかり食べている。2人で社畜自慢対決みたいな話になったときに今度揉んであげようかと善意で言ったら「その時間があったら寝ていたい」と笑っていた。典型的な「生活習慣病リスクの高い生活」を送っていたのだ。
仕事をやめてからはそこには全然行かなくなってしまった。出費を抑えたかったし、駅二つ離れていたのでふらっと立ち寄るにはちょっと遠かった。たまに用事があった時にはいってたけど、それだって半年以上前だ。職場のパートさんは1週間前に行ったばかりだって言ってた。後悔しても仕方ないけど、ケチなこといってないでフラって行ってやればよかった。
亡くなったと聞いた時にはあんまり実感なかったんだけど、不意に「いや、あれはまじやばいんだって」という彼の独特な口ぶりを思い出したら泣けてきた。
もっとお店いっとけばよかった。強引にでも背中叩いてほぐしてあげればよかった。ちゃんと寝てねって強く言ってあげればよかった。あたしが彼にできたことなんて何にもないだろうけど、今は後悔しか浮かんでこない。
また再就職出来たらそのうち顔だそうと思ってたのに彼にもう会えない、もう話せない。
だってまだ36じゃんかよう。
早すぎんだよ、バカヤロウ。
すっごいがんばって、あんなに美味しい料理作って、新規開店の割には地元民にも愛されて、芸能パーティーのケータリングなんかにも呼ばれてそのたびに自慢してきたけど、自分の命失ったら意味ないじゃん。もう一度だけで良いから会いたいよ。
あんなに一緒に笑ったのに料理が美味しすぎて料理の写真ばっかり撮ってて本人が写ってる写真は一枚もない。でもまたいつか、まあ。いつになるかはわわかんないけど、そっちにいったら美味しい中華を作ってもらおうと思う。だから今はゆっくり休んでほしい。
