あたしは普段オープンゲイとしてノンケ社会で遊びまわっていて、もう十分に周りのノンケの友達に恵まれているから、あんまり「サベツダー」「ゲイノケンリガー」とか言いたくないんだけど、「みなさんのおかげでした30周年記念SP」であの忌々しいキャラクター、保毛尾田保毛男が復活してしまったので思わずこうして筆を取っている。
あたしは「とんねるずのみなさんのおかげです」が大好きな子供だった。「とんねるずのみなさんのおかげでした」じゃないの?と思われる若い方もいるかもしれないが、1988年から90年まで前番組として放送されていたのが「とんねるずのみなさんのおかげです」だった。
当時あたしは5~7才だったんだけど、未だに覚えているから幼少期の擦り込みってすごいんだなって思う。実際に「とんねるずのみなさんのおかげです」の最終回は小学校の入学式の前日で、寝坊したら困るからと親が見せてくれず、ビデオ録画で泣く泣く我慢したという記憶も残っている。その最終回に関しては繰り返して何回も見たので未だに番組内容もよく覚えている。エレボにデパボという言葉もその時知った。
「とんねるずのみなさんのおかげです」だけじゃなくって、「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」「志村けんのだいじょうぶだぁ」あたりのバラエティー番組はどれも好きだった。そのあとの「ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!」「山田かつてないテレビ」も好きだった。
「とんねるずのみなさんのおかげです」は特に思い入れが強かったんだけど、番組のコーナーの中でも「仮面ノリダー」「サンバーダード」「イボタカ子」「モジモジくん」あたりが好きだったんだ。おかげで今だに宮沢りえと小泉今日子を妄信的に愛するオカマになってしまった。
ただ、「保毛尾田保毛男」だけは苦い思い出しかない。
同性愛者を面白おかしくデフォルメして石橋貴明が演じたのが保毛尾田保毛男だった。
あたしは子供の頃からオネエっぽさが出てる子供だった。リカちゃんもシルバニアファミリーも好きだったし、それを自覚しているかというとまだ子供だったのでよくわかってなかった。自分では普通に話しているつもりなのに「おかま」「おとこおんな」と周りの子供から呼ばれて、「自分は周りとは違うんだな」ってなんとなく感じて悲しく思うことが多々あった。
そんな時にふと新しいあだ名で呼ばれるようになった。それが「保毛尾田保毛男」だった。田んぼとファミレスしかないような田舎ではテレビの存在が絶対的で、小学校に上がるか上がらないかくらいの子供にも保毛尾田保毛男の存在は浸透していたのだ。
未だに同級生には「どうしてそうなっちゃったの?」って驚かれるくらい、あたしは小学生時代はわりと気が弱くて温厚だったので暴力的に降りかかってくるそのあだ名に対して成す術が何もなかった。子供ってなんて残酷な生き物なんだろうか。保毛尾田保毛男、あたしは周りからこういう存在のように映ってるんだって絶望しかできなかった。そこには不安と恐怖があった。このまま、保毛尾田保毛男のように周りから笑われつづけたらどうしよう。大好きだった「とんねるずのみなさんのおかげです」の中で「保毛尾田保毛男」だけが憎かった。
子供っていうのは飽きっぽくてやがて保毛尾田保毛男なんていう名前も忘れていって、いつの間にかそんなあだ名もなくなったんだけど、保毛尾田保毛男という単語を聞くと今でもあの時のつらい気持ちがうっすら湧き上がってくる。
何もわかってない子供だったけど、保毛尾田保毛男の存在はゲイ差別を促していたと今だからこそ言える。女っぽい男を笑うことを全力で肯定してる。うちの弟は3歳違いなのでわりと一緒にいたんだけど、そんな風に呼ばれる自分を見て、どう思ってたんだろう。うちの親も多分その事には気づいていたと思うけど、どう思ってたんだろう。親にはカミングアウトしているけど、あの頃のことは未だに聞く勇気はない。
「まだそういう時代だった」、もう自分もいい歳しすぎた大人なのでそう割り切って考えることもできる。逆にNHK教育テレビの海外ドラマ枠で「ふたりは友達? ウィル&グレイス」が放送された時は2002年だったんだけど、「ストレート風でハンサムな」弁護士のウィルがゲイであるという設定に衝撃を受けた。世の中は、というよりアメリカはLGBTに対してここまで理解した国になったのかと感動した。
LGBTブームと言われて久しいが、ゲイを偏りなく写すメディアも増えたと思う。でもその矢先に保毛尾田保毛男が復活してまた心がそわそわしてしまった。なぜ今、時代を逆行しようとするのだろうか。どんな気持ちでフジテレビはこれをまたやることにしてんだろうか。
中には「騒ぎ過ぎ」という声もある。
そう声をあげる人に一つ聞きたい。
もし自分が保毛尾田保毛男というあだ名で呼ばれたら、
もし自分の子供が保毛尾田保毛男というあだ名で呼ばれたら、
どんな気持ちで毎日を過ごさないといけないか
そんなことを少しだけ想像してもらいたい。
あたしは今生きてきて、こんなに友達にも恵まれて、楽しい毎日を送れている。今更「ゲイだから生きるのがつらい」なんていうつもりは一切ないし、オカマなの?って聞かれても胸を張って「オカマだよ!」と笑い飛ばせる強さも持ち合わせてる。でも幼少期に保毛尾田保毛男というあだ名をつけられてつらい思いをした昔の自分にもし誰かが「そんなことないよ」と手を差し伸べてくれたらもうちょっと楽な気持ちになれたんじゃないかなと今更ながら思った。
あたしの幼少期の素晴らしい思い出だった「とんねるずのみなさんのおかげです」、30周年はおめでたいけど素直にお祝いできない自分がいる。皆にも少しだけ考えてもらえたら嬉しい。
※サンバーダードの表記に誤りがありました。ごめんなさい。
※松岡さんのブログにも色々考えさせられたので貼っておきます。読んでみてください。
【PR】Realsoundという音楽サイトでLGBT関連記事を書きました。良かったらこちらもどうぞrealsound.jp
【PRその2】こっちは中年ゲイカップルの何気ない日常を描いた料理漫画です。カミングアウト問題、両親への仕送り問題など、あたしたちの日常のことがさらりと描かれています。読んでみてねー。