それでいいっしょ

ゲイHIPHOPライター鼎のブログ

東京ドリームはここには無かった。

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先日ちょっと自転車でおでかけをした帰りに、コンビニでタバコを買って吸っていたら、小汚い兄ちゃんに「地元の方ですか?」と聞かれた。今どき知らない人に話しかけられることもないので「ひぇ!」って怯みながら「まあ」って答えたらその人が勝手に身の上話を始めたので困ってしまった。

歳は40前後。マイルドヤンキーから加齢によってヤンキー成分がちょっと抜けてきて、腹ばかり出てきた、そんな感じの人だった。髪は短髪、服は黒のスウェットに伸びきったTシャツ。そして大きめのリュック。人は悪くなさそう、なんてことはのんびり言ってられない。
本当は面倒ごとに巻き込まれたくなかったので「早くこの場を去らなければ」と思っていたんだけど、適当に相づちを打っているうちに興味が湧いてしまった。

なんでも秋田に住んでいたが、20年働いていた職場が倒産。現金が尽きてきたため、一発逆転を狙って鈍行で東京に来たらしい。年齢は38歳だった。
東京に来て18日目。最初は新宿、そして池袋へと渡り、仕事を探したという。きっと職安に行き、金のあるうちは漫画喫茶などで過ごしたのだろう。でも今どき職安なんかでは住所不定の人に仕事は紹介してはくれない。そうして結果のでないまま、仕事がもらえると噂を聞いて山谷へと来たという。秋田訛りが哀愁を誘う。

「土手なら寝れるかと行っても、ホームレスの縄張りみたいのがあって『消えろ』って言われちゃって行くあてもなくて。警察も力にはなってくれないし、公園で寝てると注意される。でも山谷で聞いたら明後日になれば4300円の日雇いの仕事がもらえるらしいので、それを待ってるんだけど、警官にちょろっと話したら危ない仕事もあるから気をつけろって言われて、もうどうしたらいいかわからなくて。」と彼は泣きだした。

4300円の日雇いってなんだ、そりゃ。あたしより悲惨だなあ。なんて思ってたら、「お兄さんいい人ですね。東京来て、初めて警察と職安以外の人と話しました。」と言われてしまった。いや、相づち打ってただけなんだけどな。

かわいそうだった。でも怖くもあった。ここは東京都区東部で、外国より治安は良いと言っても何に巻き込まれるかわからない。全部嘘の話だったらどうしよう。そんなことは関係なく、彼は話し続ける。

「公園のトイレで石鹸で身体も頭も洗って。荒川区の支援でこのTシャツもスウェットもパンツももらえたんだけど、公園で洗っても乾かす場所もないから生乾きのままでバックに入れて持ち歩いてるから臭いんです。なのでお兄さんとも距離をちょっととってます。」

それは助かると思いつつも、なんとも気の毒な話ではあるなあとも思った。
1日くらい泊めて風呂でも入れて、身体を休ませてあげたいなとも思ったけど、自宅はここから4kmは先だし、やはり知らない人を招くのは怖い。
そして正直言ってあたしは人に施しを与えられる身分では決してない。人の生活より自分の生活の方が大切だ。明日の飯の不安を抱える二人がかち合ってしまったって話だ。

「自分も派遣の身だから耳が痛いし、今週も現場なくってさあ。でも派遣会社によっては履歴書なくても大丈夫なところあるから色々あたった方がいいよ!!」
憐れむわけでもなく、ただ同調しながらのアドバイス。世紀末不幸自慢合戦。

「なんかね、東京でてくる人って、ある程度地元でお金貯めて部屋を借りて住所作ってからの方が仕事もありつけるんだよね。」
「それは役所の方にも言われた。なんでもっとちゃんと準備してこなかったんだろう」

無鉄砲すぎたんだよ。38歳は東京ドリームをおいかけるにはあまりにも歳を取りすぎたんだ。こんなこと言ったら悪いけど、でも正直にそう思ってしまう。

「お兄さんは僕みたいになっちゃっただめだよ」と彼は言う。
わからない。自分だって定職につけてない。歳だって30半ば目前。明日は我が身かもしれない。

好奇心から「秋田帰ればなんとかなるの?」って聞いてみた。
「親がなんとか家は残してくれてたんで。あと契約社員でもいいならおいで、って近所の鉄工所のおじちゃんとかも言ってくれてたんだけど、やっぱ東京に憧れてそれ蹴ってきちゃって。帰れたら土下座でもなんでもして雇ってもらいます。」

「それがいいよ。」
東京ドリームはここにはなかったってことだ。気の毒だけど。28だったらまだなんとかなったかもしれない。でも、もう全てが遅すぎたんだ。

「今日はどっか公園で寝て、なんとか明後日まで過ごして、日雇いでじぇんこ(銭)もらって鈍行で秋田帰ります」。涙をぬぐってそう彼は言った。

あたしは「ちょっと待ってて」と言って、コンビニに走って菓子パンを3つ掴んでレジで支払いをした。
「これ、たぶん常温でも保存できるから分けて食べて。ごめんね、これくらいのことしかできなくて。」と言いながら渡したら彼は更に泣いていた。「ありがとうございます。ありがとうございます。秋田来たら遊びに来てほしい」と言われたけど、それもまた面倒な話なので話を切り上げて帰ってきた。

やっぱり泊めてあげればよかったのか。少し悔いが残った。


東京は夢が叶う魔法の土地だ。でも現実はとても冷酷で、その夢はあっけなく消え去る。それは彼だけでなく、あたしだけでなく、誰にとっても同じことだ。彼が無事秋田に帰れることを心の底から祈ることしかあたしにはできなかった。

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