面接を終えた。今回も手ごたえはない。
「フォトショもイラレも経験ないんだ」「うちはデザイナーじゃなくても一人で回せるところまで回して欲しいからディレクターでもフォトショくらいは出来てほしかったんだよね」
先に言えよ。
「他に何社ほど受けられてるんですか?」
「転職活動も始めて1年を過ぎ、既に100社を超えました。最近は本当に自分は再就職できるのかと考えるたびに絶望しています。33歳は決して若くはない。以前みたいに気軽に転職も決まらない。『もしかしたら再就職できないかもしれない』。そう考えた方が選考で落ちた時に気が少し楽なんです。最近は実家に帰ろうかとばかり考えています。でも帰ったところで自分が望むものが何もない環境。落ちても地獄、実家に帰っても地獄。せめてあと少しだけがんばろう。ほんの少しの希望を見出しながら就職活動をしています。」なんて言えない。
「知ってますか?週4の肉体労働で稼げる金額って、たった12万なんです。原稿料やアフリエイト報酬が3万前後なのでそれを合わせてやっと15万。生きるだけで精一杯なんです。
文化に触れる余裕もない。最後に映画を見たのは、海街ダイアリー。君の名はもシンゴジラも見てない。ララランドがどんな映画なのかもまったく知らない。人並みに文化に触れる生活を送りたい。あたしの願いはそれだけなんです。
最後にウニを食べたのも1年前です、そういえば。もう味も忘れた。貰い物の玄米と5食180円の冷凍うどん。半額のブラジル産鶏肉にたまご、冷凍ほうれん草にもやし。それで日々食いつないでいます。でもそれだけじゃ栄養が足りないからバイト先の工場で370円の仕出し弁当を頼んで毎日食べてるんです。
でもたまに赤身の美味しい牛肉とかウニとか食べたいんです。月に一度とかでいいんです。前みたいにボーナスが出たら今半に行ったり、とらふぐ亭に行ったりとか、その程度でいいんです。
人並みに暮らしたいだけ。それだけの願いがなぜかなわないのでしょう。」
「好きで肉体労働をしてると思いますか?30過ぎて無理して、首も腰もボロボロで。でもマッサージに行くお金もないんです。疲れ果てて毎日寝落ちしちゃうんです。最近はちょっとしたことで手のひらや太ももがつるんです。原因はなんだろうって調べたらカリウム不足だって。ミネラルとか何からとれっつうんだ、土でも食ってろっつうのかよ、くそ野郎。
だからそんな生活から一分一秒も早く抜け出したいんです。」
行き場のない嘆きが生まれては消える。
面接では笑顔を作り、綺麗な建前を並べ立てたが、スキルのミスマッチ感は否めなかった。あたしがサラリーマンとしてがむしゃらに過ごした7年はどこに行っても評価されない。なんだったんだろう、あの7年間は。怒鳴られながら必死に売り上げを作った7年間は。キャリアプランを描いてこなかったのが悪かったのか。新卒カードをどぶに捨てたのが悪かったのか。有名な企業、無名な企業。100社以上受けているが、どこにも拾ってもらえない。
しょうがない、ではもう済まないところまできている。精神的に限界。7年間で貯めた貯蓄はあっという間になくなってしまった。ここだけの話、借金にも手を出している。イベントに誘われてもその一杯の酒代すら捻出できない情けなさよ。あたしはただ人並みの生活が送りたいだけなんだ。ただそれだけのことが叶わない。
がんばればなんとかなる、やる気があれはなんとでもなる、なんて全くの嘘ですって小学校の道徳の授業で教えてくれたならこんなに人生に失望しなくて済んだのに。
どうにもならない時は本当にどうにもならない、って毎日唱えさせた方がいい。そしたら人生に然程期待しないで済むから。お金がないこともつらいと思わなくなるから。親に申し訳が立たないことも平気になる。就職活動がうまくいかなくてもどうってことはないと思えたのに。
「次はがんばろう!」
何度自分にそう言い聞かせてきたんだろう。
これからあと何回自分に言い聞かせればいいんだろう。
そんなことを考えながら帰宅中に近所の神社に寄った。最近は毎日ふらっと立ち寄って就職祈願をしている。実家にいる父が「お前の仕事が決まるように毎日裏の神社でお参りしているんだ」と言っていたことを思い出す。
神様、なぜあたしがこんな目に合わないといけないのでしょうか。普通の幸せをなぜ手に入れることができないのでしょう。泣きながらあたしは思った。
それがお門違いだということはわかっている。でもこの怒りと絶望をどこかにぶつけないと自分が押しつぶされてしまう。うっすらと明かりが照らされた夜の神社で嗚咽だけが響いた。
神様からの答えは今のところない。
お金がないことの苦しさと企業に選ばれない悲しみの中で必死にもがきながらあたしには「ツギコソガンバロウ」と繰り返し唱えることしか術がないのだ。
人気の絶望シリーズがnoteになりました。
前職を辞めた時の日記、肉体労働のバイトを始めたときの日記、仕事が見つからなくて神社で号泣した日記をまとめました。ツイッターでもバズった記事ばかり。面白いかどうかは別にして色々悲惨です。100円。