実は先月は野外プールでバイトしていました。とは言っても派遣だけど。
下町からも行きやすい埼玉県の某市民プールでチケット販売などをやっていました。たまに監視員もやったけれど、あまり日焼けしたくなかったのでできるだけチケット販売に入れるように融通してもらった。それにしてもアメリカ産のSPF100は凄い。全然焼けない。
出社して、門を開けてプールの看板を出して、チケットを売って、たまに「ロッカーが開かないんですけど」「両替お願いします」と呼び出されたりして。はっきり言って工場の仕事より全然楽だった。曇りの日は来客も少ないのでのんびりおしゃべりしながら日が暮れるの待った。
ただ、暑い。冷房もない小屋みたいなところだから、風はあったけれどひたすら暑かった。じわりじわりと体力を奪われていった。三十路過ぎの身体にはあの暴力的な暑さはつらい。実際に仕事を上がってから疲労感を感じて漫画喫茶で寝ることが度々あった。今思うと軽度の熱中症だったのかもしれない。
時給は1000円でまあ悪くはないと思うが、7時間働いて7000円。日給7000円の仕事はたとえ30日フルで働いても21万にしかならない。そう考えると正社員というのは強いんだなと思った。まあ、就職活動と並行していくにはこれしか選択はないので仕方がない。
カラりと晴れた日には客が気持ち良さそうに水に浸かっているのを羨ましく思った。夏を満喫している客を眺めながら「あたしは夏を無駄に浪費している」とうっかり思ってしまった。おまんま食うためには仕方のないことだってのはわかっていたけれど。しかももう33歳になろうとしているのに夏を楽しみたいと思うなんて図々しいかもしれないけども。でも目の前に夏があるのにいつまでもたどり着けないもどかしさよ。
フードも売っているのだけれど、休憩時間にかき氷や焼きおにぎり、フランクフルトをよく食べた。それがあたしの最大限の夏だった。
あとは工場とは違って、チケット販売には大学生の女子のバイトがいっぱいいた。大学生ってすごい生き物だ。紙飛行機を作って飛ばして遊んでいたりする。何が楽しいのかわかんないけど、ケタケタ笑っている。「好きな人が欲しい～片思いしたい～」とあくびをしながら言っている。「ワーホリまた行きたいけど単位ヤバいんすよね」だって。若いって凄い。
「牧迫さん知ってます？主任って30歳なんですよ。結構行ってますよね」と言われたことがあった。なのでわざと「えー！じゃあ自分が最年長かも。33だし」と言ったら驚きながら困った顔をしていた。
でもやっぱり市民プールだから困った客なんかも結構いて。
ガラの悪いおじさんが「人がプールサイドで寝てんのに頭の上でガラガラ鳴らしてんじゃねえよ」とライフセイバーに怒鳴りこんできたリもしたし、酒を持ち込む客もいた。それも魔法瓶に詰め替えて一見すると酒だとわからないようにしていたりする。みんな悪知恵つけてくるんだなあ。
あとはロッカーに忘れ物がないか点検もするんだけど、使用済みの紙おむつを故意に忘れていく人もいた。そもそも受付の際には小さなお子さんに対して「おむつは取れてますか？」と確認しているんだけれど、それで「はい」と嘘をつき、その上で紙おむつを置いていくという悪意にまみれた親がいることに驚かされた。
それでも市民プールは小さい子供を持つお母さんたちの味方だ。プールってだけで子供は喜ぶ。子供用の浅いプールで子供たちを遊ばせながらお母さんたちは世間話に花を咲かせる。
「お姉ちゃんがねー、3人目産んだんだけれど、同じ病室の妊婦さんが産んだ赤ちゃんの手の指が6本だったんだって。でも良くある話みたいで、あっさり切り落としちゃうんだって。赤ちゃんの時に手術しちゃえば傷跡も残らないんだって」「うそー、でも目が三つある赤ちゃんの話とか聞いたことあるよー」「それって見えるのかな」「さすがに見えないでしょー」
オカルトめいた話を大声でするもんだからギョっとさせられる。
毎日のように通う中年男性も結構いた。自営業なのだろうか。「今日の水温はどう？」「26度だからちょうどいいと思いますよ」毎日顔を合わせているとなんとなく話したりするようにもなる。彼らの肌はまっくろだ。
色んな地元の人たちに市民プールがこんなにも愛されていることを知った。
最後の方は我慢できずに休憩時間に着替えてプールに入っていた。8月も終わりかけで気温もそれほど高くないけど、浮かんでいるだけで気持ちが良かった。そうしてあたしの夏は終わった。悪くはない夏だったなあと今となってなんとなく思う。
鎮座DOPENESS×環ROY×U-zhaan / サマージャム'95
